万田酵素株式会社様発行の「Hakko Times」vol.4「発酵を知り、健康を知る人。発酵PEOPLE」に掲載していただきました。
≪以下本文≫
発酵という食文化の奥深さを世界へ広めたい 丸新本家株式会社五代目当主 湯浅醤油有限会社代表取締役社長 新古敏朗さん
「発酵を知り、健康を知る人」にお話を伺う連載。第四回は、醤油発祥の地の1つである和歌山県湯浅町で古来からの醤油造りを復活させた新古敏朗さんです。発酵食品の魅力やこだわりをたっぷり伺いました。(取材:万田発酵会報誌編集チーム)
「手間暇を惜しまず味と発酵の力を追求」
時は鎌倉時代。中国から禅僧が持ち帰った製法で作られた「金山寺味噌」の‟溜まり”として、和歌山・湯浅地方に醤油が誕生します。明治時代から、この「金山寺味噌」と醤油の製造を手がける丸新本家の五代目当主が、新古敏朗さんです。「弊社では、国産大豆、小麦、塩などシンプルな素材を使い、昔ながらの製法で醤油を造っています。基本の流れとしては、まず大豆をじっくり茹で、炒り割小麦を混ぜ、麹菌をかけて、1年半以上に渡って杉樽で発酵・熟成していきます。現代の製法では、大豆を一気に加圧するのが一般的ですが、そうすると、時短はできても大豆の組織を壊してしまいます。同じ理由から塩も、高温で海水を炊く塩ではなく、塩田のように低温で時間をかけて結晶化する低温結晶塩を使っています。このような製法は時間がかかり、大量生産には不向きですが、素材の味わいを損ねることがありません。私達は試行錯誤を重ねる中で、こうやって一つ一つの素材に手間暇をかける古来からの製法を守ることで、微生物が正しく働き、おいしさと発酵の力を引き出してくれることに気が付いたのです」。また、湯浅醤油は、大豆の煮汁も余すことなく醤油造りに使っています。通常は捨てられてしまいますが、元々、煮汁には大豆の栄養と滋味が溶け出していて、非常に甘くておいしいもの。「それを捨ててしまうなんて、もったいない!ごみを出さずに素材を使い切る、環境への配慮にもつながっています」と新古さん。こういった想いは、同じ発酵食品である万田酵素と、共通する部分です。
「おいしさは数値に現れる!発酵食品の可能性も追及」
手間暇をかける効果は、数値としても現れています。例えば、濃口醤油の一種「魯山人」を計測してみると、一般的な濃口醤油と比べて色が濃く、乳酸、アミノ酸窒素の値も飛び抜けて高い一方、塩分は低い値に。味わってみると、発酵の旨味とコクがしっかり感じられ、それをキレのある酸味が下支えするバランスのいい風味に仕上がっています。新古さんは「魯山人」について、「おそらく濃口醤油の分野では、どこにも負けない味わいだと自負しています」と自信を覗かせます。また湯浅醤油では、これまで明かされて来なかった、発酵食品の健康への作用も東京農業大学と共同研究しており、さらなる発酵食品の可能性も追及しています。「日本独自の発酵食文化をフランスから世界中へ」日本独自の発酵食文化を海外に伝える活動にも積極的に取り組んでいます。例えば仏・ボルドーでは、老舗ワイナリーの協力を得て、現地での醤油造りに挑戦中。近い将来、発酵食レストランをオープンし、ミシュランの星獲得も狙っているといいます。「フランスでは今『MANGA(漫画)』のように発酵食も『HAKKO』として知られるようになり、その奥深さや味わいへの注目が高まりつつあります。2024年に『パリ五輪』が予定されていることもあり、フランスでの醤油造りが成功すれば、そこから世界の国々へ情報が巡っていくのではないかと考えているのです。試供品としてお渡しした醤油で作った料理を食べたフランス人の方からは『こんなおいしいものを生まれて初めて食べた』というお声もいただきました。味噌を使った西京漬けに感動して下さった方もいます。聞けば、フランスにはそういった『漬け込む』調理法があまりないのだとか。こんなふうに、発酵食品の使い方やおいしさを広く伝えていきたいですね。また、海外には、さまざまな視点で発酵をとらえ、研究されている方も多くいらっしゃいます。伝統的な方法を守る日本人には無い発想で発酵を捉えるため興味深く、発酵の可能性を感じます。今後も世界に発酵の良さの発信を続け、そういった方と一緒に新しいものを生み出すチャレンジをしていきたいと考えています。」
「醤油発祥の歴史と文化を次世代を担う子供達へ」
世界を視野に入れる新古さんですが、地元湯浅町の小学校での食育にも積極歴に取り組んでいます。そのきっかけは、新古さん自身が高校を卒業するまで、湯浅町が醤油の発祥の地であると知らなかったのだとか。「親からも学校教育でも教えてもらわなかったので、これは地域にとって大きな損失ではないかと思ったんです。それで、2005年から小学校を回り、ペットボトルで1年かけて『マイ醤油』を造ってもらう授業を始めました。ペットボトルは透明ですから、発酵・熟成の様子をよく観察して、最後は完成した醤油を味わっていただきます。今では毎年定番になっていて、子供達も湯浅町が醤油発祥の地であるということを認識してくれるようになりました。その歴史は地域の誇りですし、将来的に子供達が地元に戻って、醤油や味噌造りに関わることにつながれば、こんなにうれしいことはありません。」と笑顔で話されました。このほか、地元での活動として、日本一の産地として知られる紀州の南高梅の梅酢や、シラスを炊く際の出汁を、自社の発酵技術で商品化する基礎研究もスタートされているそうです。
昔ながらの醤油造りを復活させた、「古式製法」と呼ばれる湯浅醤油での醤油の基本的な作り方をご紹介します。
1.大豆を茹でる 一般的に醤油の仕込みでは大豆を蒸すが、湯浅醤油では約4時間、大釜でじっくりと煮込む。この工程が「古式製法」と呼ばれる所以となっている。
2.もろみにして熟成 1の大豆に炒り割小麦を混ぜ、麹菌をかけて室(むろ)で3日間寝かせる。その後、大豆の茹で汁に五島灘の塩を混ぜ、麹と合わせて杉樽に仕込む。この状態を「もろみ」といい、定期的に櫂入れし、酸素を送って1年半以上熟成させる。
3.もろみを搾る 熟成後のもろみをきめ細かい生地に染みこませ、機械を使って圧力を徐々にかけ、生醤油を搾っていく。3~4日かけてゆっくり絞ることで、昔ながらの味わいが損なわれないという。
4.オリおろし完成 生醤油を桶に入れ、約1ヵ月間オリ(沈殿物)がおりるのを自然に待つ。その間、オリのない上部の醤油だけを取り出して火入れ。火入れした醤油は約2週間置いてオリを沈めて澄んだ状態にした後冷やし、瓶に入れて完成。
「万田酵素は本能的に体にいいものという実感」
そんな新古さんに万田酵素を召し上がっていただいたところ、「濃厚な甘さや渋さ、様々な素材の風味が一度に感じられて驚きました。どこか本能的に‟体にいいものなんだ゛という実感があります。味にはうるさい弊社の従業員達にも試してもらったのですが、みんな喜んで食べていましたよ」という好評価をいただきました。実は、同じ発酵食品メーカーということで、万田酵素にも以前から興味を持っていただいており、因島の「HAKKOパーク」にも訪れたことがあるのだとか。新古さんの発酵への探求心には驚くばかりです。今回も、発酵食品の魅力や奥深さ、そして未来が感じられる貴重なお話でした。湯浅醤油では、こだわりの製法で造り上げられる醤油や「金山寺味噌」が購入できるほか、醤油蔵の見学や醤油造りのワークショップなども体験できます。ぜひ機会があれば、訪れてみてはいかがでしょうか。